久山のバス停
久山のバス停 / 福岡,日本
竣工 2012
Photos by Kouji Okamoto / Techni Staff
人口8000人の小さな町に、たった一台走るコミュニティバス「イコバス」のデザインに関わったことを機に、その発着点にバス停を設計することになった。バスの内外装から町の各所に置かれる標識、そこに貼られる時刻表までをも手掛け、建築からプロダクト、グラフィックに至るまでトータルに景観要素を取り扱うプロジェクトとなった。
バスは田園風景と調和する町民の足、移動する町のアクセントカラーとしてデザインされた。そして、このバス停は、背景の自然や建物が建築を通して見えるようにすることで、周囲の環境にとけこむ、軽やかな印象を与える空間とした。楽しげで動的なバスと控えめで静的なバス停は、自然を大切にしてきたこの町の風景に、小さくも鮮やかな対比を添えている。
構造材として採用した華奢な平鋼は、地面から壁へ、壁から屋根へ、屋根から壁へ、壁から地面へと連続する門型の帯となり、その帯が重なり合いながら、織物が立体化したような繊細な空間を構成している。構造解析には3Dモデルを用いて、吹き上げを考慮しつつ、部材寸法や溶接個所等を決定した。汎用材である平鋼のみを用い、糸のように細い部材が束となり織り重なってできた空間は、見たことのない新鮮な印象を獲得している。また、鋼材に施された捻りや叩きによってクラフト的味わいも得た。
このバス停は5㎡にも満たないが、お年寄りや子どもが快適にバスを利用でき、バス利用以外でも、お互いフルネームで呼びあうような町民同士のおしゃべりの場所となるよう、バス停の床高をバスの床高と合わせたり、座ると自然に話しやすい角度になる「く」の字型ベンチを採用するなど、日常生活の場を豊かにする工夫がたくさん込められている。