那珂川市 博多南駅前ビル(ナカイチ)<外壁・内部リニューアル>
博多南駅前ビル(ナカイチ)<内部・外壁リニューアル> / 那珂川市 , 福岡,日本
第31回福岡県美しいまちづくり建築賞 一般財団法人福岡県建築住宅センター理事長賞受賞
竣工 2018.3
用途 その他庁舎
構造 鉄骨造4階建て
敷地面積 1,513㎡
延床面積 2,188㎡
サインデザイン イメージゲート
施工者 大祥建設株式会社
扇技研株式会社
進興設備工業株式会社
株式会社春崎電気工事
Photos by Yousuke Harigane
交換と祝祭の場「ナカイチ」
博多南駅は博多駅から新幹線で一駅、乗降者数12,000人/日を超える那珂川町の玄関口である。駅に隣接する町所有の博多南駅前ビルは2004年に完成、駅と直結する2階レベルには広々とした人工地盤(博多南駅前公園)があり、1階にはバスターミナルが隣接する恵まれた環境にありながら、建物内部の利用者は非常に少ない状態であった。課題は利用用途が不明瞭であったことと、立ち寄りたくなる空間的魅力が欠けていたこと、そして駅や人工地盤との関係が築けていないことであった。
町は、外壁や屋根の大規模修繕に加え建物の内部も大きく改修することを決定、もっと多くの町民に利用してもらえるまちづくり拠点をつくることを目指した。そこで我々はコンセプトを「交換と祝祭の場、ナカイチ」とし、市場のように賑わいのある施設につくり替えるデザインに着手した。
古今東西、市(いち)には多くの人が集い、物だけでなく情報を交換する場所であり、芸や技を披露する賑やかな祝祭空間であった。また目的無くとも訪れる、現代でいうサードプレイスでもあっただろう。そういう場に生まれ変わるにはハードだけでなく利用の内容やスタイルを再設定する必要があった。町は改修に先立って、外部に委託し2年前からさまざまなイベントを通して利用の試行を重ねていたため、それを取り込むかたちでデザインを進めることができた。このようなプロセスは他でも参考になるものである。
我々は4階建のフロアのそれぞれに、異なる「市」のテーマを与えてコントラストを付けた。予算の事情からもできるだけ既存を再利用しつつ、町民に「変わった」と受け止めてもらえるよう、場に適切な色彩やサインなどにも気を配った。西側全面のガラスのカーテンウォールには遮熱断熱フィルムを貼って省エネルギーを図っている。駅側の外壁の塗装には遠景から建物がシンボリックで立体的に見えるような配慮、駅に繋がるブリッジの塗り直しにもゲート性を持たせ駅ビルへのアプローチを強調する工夫を施すなど、周辺全体の景観の向上を行った。
周辺施設と景観的工夫
内部デザインの工夫
「市」の賑やかさをつくるために、多くの場所に町民が情報交換を行いやすい仕掛けを施した。また町民が自主的に
イベントを企画・展開しやすいよう、シェアキッチンや屋台など可変の設備も充実させている。
ナカウォール
情報交換の仕掛けのひとつが壁のしつらえである。交換の象徴として「庇」「小窓」「引き戸」などを仕込んだ壁を、各階の利用スタイルに合わせて展開し、これをナカウォールと呼ぶこととした。階段の踊り場の壁も取り込み、あらゆる壁の存在を無駄にしない工夫を施している。
ナカート
可変の設備のひとつがナカートである。町民が自分の手づくり作品や農産物などを販売できる、貸し出し式の屋台をデザインした。
主に2階の室内と、駅前広場(人工地盤)で使用でき、販売利用していないときは学生の勉強スペースや談話の場として使うことも可能である。
サイン計画
空間のコンセプトである「ナカイチ」から、「市(イチ)」の文字をモチーフに、人のシルエットをデフォルメしたアイコンを制作した。これは「市」をつくるのは「人」であるという考え方に基づいていると同時に、両腕を広げて「市」に人を招く様子も表している。このアイコンをビル全体サインのイメージ統一を図る上でのヴィジュアルシンボルとし、グラフィックパターン、さらにピクトグラムとしても展開している。このアイコンが持つ親しみやすいフォルムが、「市」という祝祭空間に愛らしい躍動感を与え、建物全体の統一感を引き出した。
各界のコンセプト
各階にはそれぞれテーマを与えて設計を行った。1階は交通拠点となるターミナルフロア、2階は既存の博多南駅前公園と繋がりをもつパークフロア、3階はシェアオフィスとして利用されるワークフロア、4階は庭園やビアガーデンを楽しめるガーデンフロアとしている。また、それぞれの階にテーマカラーを設け、サインとも連動させて表示している。初めて訪れた人でも建物の構成が分かりやすいよう工夫して設計を行った。
Before
外観
After
1階
2階
3階
4階